2021-05-03

RHEL 互換の Linux

Red Hat Enterprise Linux, RHEL は、Red Hat 社によって開発されている、エンタープライズ市場向けの Linux ディストリビューションです。最近の RHEL のライフサイクルは 10 年で、延長が必要であれば追加サブスクリプション (Extended Lifecycle Support Add-On) も提供されます。

Wikipedia より引用、翻訳、編集
Red Hat Enterprise Linux 8.3 のデスクトップ画面

※ 2021-02-12 のブログ記事「RHEL 互換の Linux」を改訂しました。

CentOS はコミュニティーベースのプロジェクトでRHELのソースコードを元に再構築した、無料のディストリビューションです。昨年の 12 月 8 日、CentOS プロジェクトは、現在の RHEL リリースより先行する CentOS Stream へとプロジェクトの活動の焦点を移し、RHEL 8 のリビルドである CentOS Linux 8 のサポートを 2021 年末に終了するという発表をしました [1]

CentOS 8.3 のデスクトップ画面

このニュースを知って、家庭内 LAN で稼働している CentOS サーバーを CentOS Stream へ移行したり CentOS へ戻したりとあたふたしましたが、結局、Red Hat Developer Subscription for Individuals を割り当てて RHEL 8.3 をインストールしました。

ちなみに、CentOS Stream については、下記に詳しく説明されています。

純正の RHEL を使い始めて、無料の CentOS とは違うことがいろいろあることに気づいて、それらをまとめ始めています。そうであれば今後は RHEL 一本で行けるかというと、そうでもありません。将来、手広く Linux サーバーを使うことにでもなれば、有料のサブスクリプションは縛りになります。RHEL 互換のディストリビューションを上手に利用していくことは今後も必要になります。

そういうわけで、CentOS の開発方針変更であたふたした際に調べた RHEL 互換のディストリビューションについて、ひとつにまとめました[ABC 順]。

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AlmaLinux

AlmaLinux は CloudLinux チームによって開発されている RHEL 8 のバイナリ互換のフォークで、コミュニティと密接に協力して開発するコミュニティのためのフリーの Linux OS です。ラテン語で「魂」を意味する言葉にちなんで名付けられた AlmaLinux は、GitHub のページを通じてコミュニティの協力を得ながら開発が進められています。AlmaLinux の最初の安定版リリース 8.3 は、2021 年 3 月 30 日に公開されました。

AlmaLinux 8.3 のデスクトップ画面

CloudLinux, Inc. は CentOS オペレーティングシステムをベースに CloudLinux OS を開発し、共有ホスティングプロバイダ向けに販売しています。CloundLinux OS は OpenVZ カーネルを使用しています。

CloudLinux のチームが CentOS に代わる RHEL クローンを開発するのは、CloudLinux OS が CentOS をベースにしていることが最大の理由なのでしょう。コミュニティベースの活動になるように公開されていることはありがたいことです。

移行ツール

CentOS 8.3 から AlmaLinux 8.3 へ移行するツールが下記のサイトに公開されています。

Oracle Linux

Oracle Linux は Oracle 社が配布している Red Hat Enterprise Linux (RHEL) をベースとした Linux ディストリビューション。Oracle Linux は i686 と x86-64 アーキテクチャに対応しており、Red Hat Compatible Kernel (RHCK) と、Oracle 製品に最適化した Unbreakable Enterprise Kernel (UEK) の二種類のカーネルを選択できます。

Oracle Linux Server 8.3 のデスクトップ画面

RHEL 互換とは言え Oracle 製品に最適化した Unbreakable Enterprise Kernel (UEK) がデフォルトになっていることから、Oracle ブランドの OS という印象が強いですが、Red Hat Compatible Kernel (RHCK) も利用できるので、コミュニティベースの OS にこだわらなければ、RHEL 互換のディストリビューションとして十分評価に値すると思います。

起動時の grub メニュー画面

移行ツール

CentOS から Oracle Linux へ移行するツールが下記のサイトに公開されています。

Rocky Linux

Rocky Linux は Red Hat Enterprise Linux (RHEL) オペレーティングシステムのソースコードをビルドし直すことで、RHEL と完全なバイナリ互換性を持つことを意図しています。このプロジェクトの目的は、コミュニティでサポートされた、製品グレードのエンタープライズ用途の OS を提供することです。

2021 年 4 月 30 日に Rocky Linux のリリース候補 RC1 が公開されました。対象アーキテクチャは x86_64 と ARM64 (aarch64) です。

Rocky Linux 8.3 RC1 のデスクトップ画面

RHEL のソースコードをビルドした従来の CentOS の未来が無くなったことを受け、CentOS の創設者の一人である Gregory Kurtzer 氏が、CentOS の初期の目標を達成するために Rocky Linux プロジェクトを立ち上げました。この名称は共同創設者である Rocky McGaugh にちなんで名付けられました。

RHEL のサポートと同じく 10 年使い続けられるコミュニティベースのディストリビューションの存在は頼もしいことですが、コミュニティでプロジェクトを永続的に維持し続けることができるか、人ごとみたいでなんですが、とても興味があるところです。

Rocky Linux は、コミュニティベースのプロジェクトであることを謳っていますが、プロジェクトの活動を維持するには資金が必要です。プロジェクトのスポンサーは下記にまとめられています。

Rocky Linux プロジェクトのスポンサー企業

Springdale Linux

Springdale Linux は RHEL (Red Hat Enterprise Linux) をベースにした Linux ディストリビューションで、プリンストン大学プリンストン高等研究所 (IAS)で開発されています。以前は PUIAS Linux として知られていました。このディストロは、CentOS などの RHEL クローンより前に始まっているプロジェクトです。RHEL に含まれていないリポジトリも提供されています。

Springdale Linux 8.3 のデスクトップ

学術的用途のためか、いままで聞いたことのなかったディストリビューションです。CentOS から他の無料の RHEL クローンに乗り換える場合で、スポンサー企業の影響を嫌うのであれば、Springdale Linux も候補になるのではないでしょうか。

各ディストリビューションの比較

各ディストリビューションがサポートしている CPU アーキテクチャなどをまとめました。

Linux CPU Architecture 備考
x86_64 ARM64 IBM Power IBM Z
Red Hat Enterprise Linux (RHEL) 8 サブスクリプション(有償)
CentOS 8 2021 年 12 月末でサポート終了
AlmaLinux 8.3
Oracle Linux 8 有償サポート有
Rocky Linux 8.3
Springdale Linux 8.3

勝手に考察

Red Hat 社が CentOS プロジェクトのメンバーの一部を Red Hat 社員として雇用して CentOS プロジェクトを支援すると発表した時は、オープンソースの活動に対する寛大な態度に驚嘆しました。もう7年も前のことです。

勝手な推測ですが、資金難、人材難にあえぐオープンソース・プロジェクトを、利益相反することを厭わず Red Hat 社が救済したのだと捉えていました。

その Red Hat 社が IBM 傘下になった後、CentOS 8.3 を最後に、2021 年末に CentOS の開発を終了すると発表したことは、タイミングが中途半端だったにせよ、仕方がないことかもしれないと思いました。

この発表にコミュニティからは非難の嵐と報じられ、Red Hat 社は、一年間の移行期間を確保しての発表だったにもかかわらず、すっかり悪者にされてしまいました。しかし、批判をする多くのユーザは、オープンソースの活動に大した貢献もせずに、オープンソースの成果を無料(タダ)で貪っているだけの人が多いのではないかと、これまた勝手に推測してしまいました。ま、自分もその類に含まれるのですが…。😅

CentOS プロジェクトへの支援は自社の利益にならない

Red Hat 社にとって、Red Hat Enterprise Linux (RHEL) こそが正式な Linux 製品であって、CentOS はあくまで支援プロジェクトでした。しかし、Red Hat 社が支援しているが故に、CentOS が RHEL クローンとしてのお墨付きを得ているというような認識を世間に与えてしまっているとすれば、支援によって自社ブランドを毀損してしまうことになります。

例えば、RHEL 7 と CentOS 7 について、著者こそ違えど、同じシリーズの本で出版されることについて、Red Hat 社はどう考えていたのでしょう。

節操が無い出版社をはじめ、無料のクローン OS に群がる世間の行為が、Red Hat 社を CentOS 開発中止へ追い込んだのではないかというような議論が、ニュースで見つからなかったのが残念です。

ビジネスに必要不可欠なオープンソース

でも成り行きを見ると、Red Hat 社の決断は妥当だったと思えるのです。

CentOS をベースに OpenVZ カーネルを採用した CloudLinux OS でビジネスを展開している CloudLinux 社は、CentOS の代替になる AlmaLinux プロジェクトを立ち上げました。CentOS 開発終了の発表後、3ヵ月程度で CentOS 8.3 相当の AlmaLinux 8.3 の一般公開を実現しています。

遅れること一ヶ月、コミュニティが立ち上げた Rocky Linux プロジェクトも Rocky Linux 8.3 のリリース候補 RC1 を公開しました。

コミュニティベースの Rocky Linux は AlmaLinux と違って企業色が無いかと言えば、そうでもありません。プロジェクトのスポンサー企業の一社は Amazon Web Services (AWS) です。直接 Rocky Linux の名称で利用されるかどうかはともかく、将来 AWS のシステムに寄与することは明白です。

MontaVista 社も Rocky Linux プロジェクトのスポンサー企業ですが、CentOS をサポートしている企業です。

いずれにしても、RHEL クローンはビジネスに必要不可欠な OS のひとつになっていて、今では Red Hat 社が自社製品のクローン・プロジェクトを支援しなくとも、他社が RHEL クローンの開発プロジェクトの支援をできるようになったと言えます。

もしも最初の CentOS 8 (8.0-1905) をリリースせずに、CentOS の開発終了を発表していたらどうなっていたでしょう。クローンの見本がない状況で、こうも早く一般公開までこぎつけられていたかどうか。いや、Oracle Linux や Springdale Linux があるので、それはわかりませんが、少なくとも危機感は違っていたでしょう。

参考サイト

  1. CentOS Project shifts focus to CentOS Stream – Blog.CentOS.org [2020-12-08]
  2. CentOS 8 EoL 変更と CentOS 8 Stream との違い、影響について — サイバートラスト株式会社 [2020-12-10]
  3. CentOS Stream:エンタープライズLinuxの革新的な未来を築く [2021-01-05]
  4. 「CentOS」に代わる「Rocky Linux」、2021年第2四半期に最初のリリース登場の可能性 - ZDNet Japan [2021-01-04]
  5. CloudLinux、「CentOS」の代替OS「AlmaLinux」ベータ版リリース - ZDNet Japan [ 2021-02-02]
  6. CentOS8の2021年末でのサポート終了を受けて今後の対応策と選択肢を考える | ソフトウェア開発のギークフィード [2021-01-28]

 

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