2018-06-22

いまどきの GNOME デスクトップ

デスクトップを選択できない悲劇

2012 年 8 月から 10 月にかけてリリースされた Windows 8 は、従来の Windows デスクトップのユーザーインターフェイスを、タブレット端末などで画面をタッチして操作することを強く意識したスタイルに大きく変貌させました(右図:Windows 8 - Wikipedia より引用)。

このユーザーインターフェイスの変更は、従前のデスクトップ PC からタブレット端末へコンピュータの主流が移っていくと趨勢を見極め、Microsoft 社が打った布石の一つなのだと、その時は思いました。一個人としてはその後の普及を期待して見守っていたのですが…。

一年後の 2013 年 10 月にリリースされた Windows 8. 1 では Windows の「スタート」ボタンが復活し、その後 2015 年 7 月末にリリースされた Windows 10 に至っては Windows 7 までのスタイルと Windows 8/8.1 のスタイルを統合させた折衷案のようなユーザーインターフェイスに後退してしまったように見えます。

この後退は多くのユーザーが Windows 8 のユーザーインターフェイスに追従できなかったからだと、Windows 10 が登場した当時は考えていました。タブレット端末に限って言えば、Windows 8 のユーザーインターフェイスは決して悪くないと思います。でも、デスクトップ PC で日々取り組む業務においては、ユーザーインターフェイスの変更は迷惑なだけかもしれません。そう、Windows にはデスクトップ選択の自由がほとんど無かったことが Windows 8 の不人気を生む一因になっていたように思うのです。もちろん、選択できるようにすることで生じる弊害もあります。

デスクトップを選択できる自由が生む多様性

一方、Linux ではデスクトップを自由に選択できます。Linux ディストリビューションによっては、インストールするユーザーの利便性を考慮して、デスクトップ環境毎にインストールイメージを提供する場合があります。ですが、インストール後であっても、デスクトップ環境を変更することは可能です。

選択の自由がユーザーの側にあるということはユーザーにとっては良いことです。しかし、その自由さは選択の多様性を生じます。多様であるために、それを「複雑」だとか「難しい」と感じる個人がいたり、あるいは標準化したオペレーションを実現したい業務分野において Linux の普及を妨げているという側面もあります。でも「カスタマイズされた専用端末を業務で使っているが、その端末の OS は Linux だった」なんてことも十分にあり得るので、Linux の普及について一個人が心配しても仕方がないことです。

GNOME のたどった進化

1999 年にバージョン 1.0 がリリースされた GNOME (/(ɡ)noʊm/) デスクトップ環境は、かつては無数にある Linux ディストリビューションにおいて標準的なデスクトップとして扱われた時期がありました。現行の GNOME 3.x 系デスクトップの最初のバージョン 3.0 がリリースされたのは 2011 年 4 月のことですから、(憶測にすぎませんが)Windows 8 の開発動向を意識して新しいデスクトップの開発をしていたのでしょう。GNOME 3 でも Windows 8 より一足早くタッチパネルでの利用を意識したユーザーインターフェイスに一新されたのです。

GNOME 2.0 (左)と GNOME 3.x(右)(GNOME - Wikipedia より引用)

GNOME 3 はこの変更により多くの批判を Linux ユーザーから受けました。GNOME 3 のデスクトップを受け入れられない人たちは、従来の GNOME 2 のデスクトップ環境を継続させるために GNOME 2.x をフォークして MATE (/ˈmate/)と命名したプロジェクトや、GNOME 3 をベースにした Cinnamon という新しいいデスクトッププロジェクトが立ち上がりました。

自分も最初しばらく GNOME 3 を使ってみましたが、グラフィック関係のデバイスを強化せずありふれた CPU を搭載したデスクトップ PC では、動作がもたついてストレスを感じたため、軽量デスクトップへの変更を余儀なくされました。そんなわけで、GNOME 3 が Fedora のデフォルトのデスクトップになってしばらくは、もっぱら LXDE のデスクトップ環境に変更して利用していました。MATE や Xfce も試しました。

LXDE(LXDE - Wikipedia より引用)

ある程度の性能を持った 10 万円を超える PC を買っても、その程度の性能はすぐに陳腐化します。しかし貧乏性の私は 10 万円以上の PC を買ってしまったら、買い換えずに何年も使おうとします。そうすると、トレンドから取り残されてしまっているという意味のない焦燥感に苛まれながら使い続けることになります。つまらない悪循環です。

そもそも PC に費やす資金が潤沢ではないので、近年はターゲットとする PC を変更しました。性能は低いけど割り切って買い替えができる格安 PC をターゲットにして Linux をインストールすることに精を出しています。そして、常用するデスクトップ環境は GNOME 3 に戻っています。

GNOME 3 に回帰した最大の理由は、格安 PC で GNOME 3 デスクトップ環境を使っていても、さほどストレスを感じなくなったことだと思っています。もちろん Fedora に関する記事を書く時はデフォルトの GNOME でスクリーンショットを取った方が良いだろうという意識も働いていますし、ストレージの容量に余裕がない格安 PC で、いくつものデスクトップ環境を選択できるようにインストールしておくのは不経済だという理由もあります。

GPD Pocket / Fedora 28 で利用している GNOME 3 のデスクトップ

そんなわけで、出張中も携行している愛用の GPD Pocket では、Windows を使わずに Fedora をインストールして、最初から GNOME 3 をデスクトップにして使っています。GPD Pocket のスクリーンはタッチパネルになっていますが、キーボードを分離できるタイプではないのでタブレットのような使い方ができません。ですのでわざわざ指紋で画面を汚すようなマネををせず、もっぱらマウスで操作しています。

このように GNOME 3 で積極的にタブレット的な使い方をしていませんが、操作に慣れてきたせいなのか、それともじわりと GNOME 3 が改善されてきて操作性が良くなっているためなのか、特に不満なく使っています。

使いたいデスクトップを利用できる自由

Linux ユーザーが Windows 風のデスクトップを利用したければ、そういうデスクトップ環境を利用すれば良いのです。それはユーザーの自由なのです。たとえば参考サイト [2] では主要なデスクトップ環境に対して、様々なデスクトップテーマを入手することができます。

キーボードとマウスを使う PC の用途が依然として残る中、タブレット端末のようにキーボードやマウスを使わない用途がどんどん増えています。家電量販店の PC コーナーでは、こういったタブレット端末がその一角を占めています。こういったタブレット端末に搭載されている OS は Android や iOS が主流です。持ち歩く用途ではタブレット端末、卓上ではキーボードやマウスを使って作業をする。Linux ユーザーであれば、GNOME 3 のデスクトップ環境はどちらの用途にもピッタリだと思います。最近は、Linux をインストールして遊べそうな格安のタブレットを探す毎日です。

参考サイト

  1. 本の虫: リーナス・トーバルズ、GNOME3に戻る
  2. opendesktop.org
  3. 個人のネット利用、スマホがPCを上回る 総務省が調査 - ITmedia NEWS [2018-05-25]

 

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2018-06-16

Linux ディストロ探訪(4) 〜 Linux Mint 〜

Linux とは本来 Linux カーネルのことを指しています。しかし、カーネルだけでは OS として動作させることはできません。そこで、OS に関連するツールやアプリケーションなどをまとめて、インストールし易く、インストール後にすぐ利用できるような配布形態にしたものを「ディストリビューション(略してディストロ)」と呼んでいます。

本シリーズ記事は、Linux ディストリビューションをピックアップ、仮想マシン(あるいは実機)にインストールして紹介します[不定期]。

Linux Mint とは

Linux Mint は、強力かつ簡単に利用できる、現代的でエレガントそして快適なオペレーティングシステム作りを目的としているディストリビューションで、Ubuntu をベースにしています。2006 年にバージョン 1 がリリースされています。また、その後 Debian をベースとしたエディション、LMDE, Linux Mint Debian Edtion もリリースされています。

プロジェクトサイトの説明 [1] によると、Linux Mint はデスクトップ用途の Linux ディストリビューションでは最もポピュラーであると主張されています。そうである理由として、次の5点を挙げています。

  1. インストール後、設定などの作業がほとんどせずにマルチメディアを含めてすぐに使える手軽さ
  2. 無料かつオープンソースであること
  3. コミュニティ主導のプロジェクトであるため、ユーザーからのフィードバックが Linux Mint の改善に結びつく
  4. Debian と Ubuntu をベースにしているため、30,000 以上のパッケージと最良のソフトウェア管理
  5. 安全性と信頼性
    • ソフトウェアの更新に対する保守的なアプローチ、独自のアップデートマネージャーおよび Linux の構造からくるオペレーションシステムそのものの堅牢さ、これらのおかげで、Linux Mint では、リグレッションテスト、アンチウィルス、アンチスパイウェアなどのためのメンテナンスがほとんど不要。

デスクトップ用途に利用できる Linux のディストリビューションであれば、上に挙げた内容はどれも似たり寄ったりだとは思うのですが、1. のインストールのしやすさや、すぐに使えるかどうかは、ディストリビューションによって差が出やすい項目です。

そこで、インストール後に、日本語入力ができるようになるまでとマルチメディアなどの機能に対応しているかを特に注視してみたいと思います。

対象の Linux Mint のバージョンは、この記事を準備している時点で最新の Linux Mint 19 Tara(ベータ版)です。以下の三種類のデスクトップエディションがあるのですが、ここでは Cinnamon Edition を試してみることにします。

Linux Mint 19 のベータ版に KDE Edtion がありませんでしたが、単にまだリリースできる段階になかっただけなのかもしれません。

仮想環境へインストール

ダウンロードした Linux Mint (Cinnamon Edition) の ISO 形式のイメージ linuxmint-19-cinnamon-64bit-beta.iso を仮想環境 GNOME Boxes で読み込むと、Live 版の Linux Mint が起動します。

Live 起動した Linux Mint 19 (Cinnamon Edition)

Cinnamon はビデオ・ハードウェア・アクセラレータを必要とするデスクトップ環境であるため、ソフトウェアで機能をエミュレートして CPU に負荷がかかるという警告が画面右上に表示されます。ここでは動作が遅くなることを許容してこのウィンドウを閉じておきます。

デスクトップ左側に表示されている Install Linux Mint のアイコンをダブルクリックして、インストーラを起動します。インストールの流れは以下のようになります。

まず、インストール時の言語を設定します。

次にインストール前に必要な設定をします。

設定が終わるとインストールが始まります。

しばらくするとインストールが終了しますので再起動します。

メディアを取り出してから ENTER を押して再起動するようにメッセージが出ますが、ここでは仮想環境なのでこのまま ENTER を押します。

Linux Mint が起動し、ログインすると日本語で初期画面「Linux Mint へようこそ」が表示されます。

日本語入力の設定

インストール時の設定で日本語のメッセージは表示されますが、入力メソッドまでは設定されません。メニューから「設定」→「言語」を選択して入力メソッドの設定をします。

言語設定(「設定」→「言語」)

「入力方法」のタブ画面で、下段の「言語サポート」の枠内の日本語の「インストール」ボタンをクリックします。

すると必要な言語サポート・パッケージがインストールされて日本語の入力メソッドが利用できるようなります。ここでは入力メソッド(上段の「入力方法」の枠内)に IBus を選択しています。

念の為、再起動してから、ひらがなの入力、漢字の変換ができることを確認しました。

日本語入力をできるようにするのに、ひと手間かかりますが、やり方さえ判っていれば簡単に設定が出来ます。

実機へインストール

仮想環境へは難なくインストール出来ましたので、実機にもインストールしてみました。

Fedora Media Writer で USB メモリに起動イメージを作成し、テスト機に使用している HP Stream 11-r016TU にインストールしました。この PC は Celeron N2840 という 2014 年後半に出回り始めた 22nm 世代の、主にタブレットや格安 PC に採用された CPU を搭載しています。

はっきり言って、かなり控えめな性能の CPU ではありますが、第7世代 Intel HD Graphics を内蔵しています。ゲーム用途に使えるほど高性能なグラフィックスではありませんが、Cinnamon デスクトップ環境に対応できる性能のようです。仮想環境で Linux Mint を試した時のような警告メッセージは表示されませんでした。

「設定」→「システム情報」
Linux Mint 19 Cinnamon on HP Stream 11-r016TU

ざっとハードウェアの機能を確認しましたが、下記の項目に付いては特に問題がありませんでした。

  • USB ✔
  • WiFi ✔
  • オーディオ関係 ✔
  • Bluetooth ✔
  • カメラ ✔

まとめ

項目 説明
ディストリビューション Linux Mint
プロジェクトサイト https://linuxmint.com/
デスクトップ環境 Cinnamon, MATE, Xfce, KDE
パッケージ形式 deb(管理ツール APT)、アップデートマネージャ mintUpdate
日本語入力 ibus-mozc, fcitx-mozc
特記事項

Ubuntu をベースとしている Linux Mint は、Ubuntu のソフトウェアリポジトリも使用しています。そのため、ほとんどのパッケージは両ディストリビューションで同じであり、二つのシステムはほとんど同じように振る舞います。

寸評
  • Linux Mint 13 Maya(2012年)以降に選択できるようになったデスクトップ環境 Cinnamon は非常にセンスの良い魅力的なデザインだと感じ、日本語環境が整えば使ってみたいディストロだと思っていました。しかし、Fedora など他のディストリビューションでも Cinnamon を利用できるようになり、Linux Mint への興味が無くなってしまいました。
  • 今回、評価目的で Linux Mint をインストールしましたが、やはり Cinammon のデザインはセンスが良いと感じました。当然ですがデザインが Linux Mint 用に設定されているため、インストール後すぐに統一感のある Cinnamon のデスクトップ環境を体験できます。
  • Linux をデスクトップ用途に使いたい方には、手軽にインストールできて、センスの良いデスクトップをすぐに使える Linux Mint Cinnamon Edition はオススメのディストロです。

参考サイト

  1. About - Linux Mint

 

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