2020-05-15

エンタープライズ用途の Linux (3)

ただ楽しむためだけに彼が始めたカーネルは今や、6 千万以上の人々の PC デスクトップやそれ以上の台数のウェブサーバの OS の一部として稼動している。

リンク切れでたどれませんでしたが、これは Abramson, Ronna (2004年12月15日) の記事です。

Linus B. Torvalds 氏の楽しみから始まった Linux カーネルはますます発展を続け、今やウェブサーバの OS にとどまらず、クラウド環境を支える重要なインフラになっています。本ブログ記事では、エンタープライズ用途で利用できる Linux ディストロをピックアップして紹介します。

前回まで Red Hat 系および SUSE のエンタープライズ用途といわれる Linux を紹介しましたが、今回は調べて判る範囲でエンタープライズ用途とは何かを考えました。

Red Hat

Red Hat Enterprise Linux を紹介した時にも参考サイトに示しましたが、下記の記事が Red Hat 社がエンタープライズ用途の Linux (RHEL) を広めるために歩んできたことを実に解りやすくまとめていると思います。

この記事から、エンタープライズ用途の OS に求められている「何か」をピックアップしてみました。

Linux はニーズに合わせてチューニングできる

ニーズに合わせて Linux はチューニングができますが、専門的な知識が必要になります。そこに「サービス」を提供するという商機があります。既に紹介しましたが RHEL のポートフォリオは多岐に亘っています。用途、ニーズにあわせてパッケージを選ぶことで、カスタマイズにかかる手間を少なくして必要なシステムを短期間に構築できます。

プライベートでコツコツと設定を重ねて出来上がりを楽しむこととは異なり、ビジネスは時間もコストです。用途に応じた製品オプションが豊富に用意されていて、より少ない時間でシステムを構築することがビジネスに求められます。

ほかの企業と協力して、長期的な成功に向けて取り組む

 

Red Hat 社はパートナープログラムを用意しており、実に様々な企業と協業しています。

企業がパートナーになって協業するにあたって、業務に関わる人のスキルがある程度以上にそろっている必要があります。そのために Red Hat 社ではトレーニングと資格認定のプログラムを利用できるようになっています。これは業務を管理する側にとって意外と重要だと思いました。

パートナーとの互恵関係を築けているかが判るデータを示すのは難しいのですが、少なくとも Red Hat 社は発展を続けています。無料の記事にはなかなか適当なものが無かったのですが、Red Hat の発展についてグラフなどの視覚的情報があるいくつかのサイトを下記にまとめました。

Linux はもっと強力なコンピューターに使える

スーパーコンピュータのベンチマークのランキングはエンタープライズの分野なのか、という議論はあるでしょうが、少なくともベンチマークに勝つためだけにスーパーコンピュータを使っているわけではなく、その計算能力を社会の何かに役立てているはずです。

TOP500 のベンチマークがすべてではありませんが、上記サイトには RHEL/CentOS あるいは SUSE を OS に使っているシステムが上位にランクインしていることを確認できます。

デスクトップ Windows のライバルは目指さない

Red Hat Linux 9 が最後の Red Hat Linux になり、Fedora Core への移行をしなければならなかった当時、変化についていくのが大変でした。

2003 年 11 月にレッドハットは方針転換を表明し、Red Hat Linux の開発終了と、企業向けに特化した Red Hat Enterprise Linux (RHEL) のリリースを表明した。無料版にあたるものの提供は、Red Hat 社が支援するコミュニティ Fedora Project の提供する Linux ディストリビューションである Fedora に引き継がれた。

Wikipedia より引用・編集

振り返ると、Linux の入手方法が、今まで家電量販店で買っていた Red Hat Linux から、Linux 関連雑誌の付録の CD/DVD に収録されている Fedora へ移り、そしていつの間にか ISO 形式の OS のインストールイメージをダウンロードするようになった、その最初の変化点だったと考えています。無料の Linux をメディアで販売して僅かばかりのサポートをするスタイルは、インターネットの発展の中ではそもそも旨味が無いビジネスでした。

一方、ふつうにパソコンを購入すると、Windows がプリインストールされているのが当たり前になっていたので、わざわざデスクトップ市場に打って出るのは無謀なことでした。そもそも Linux のデスクトップ環境は選択できるものですので、企業活動に求められる統一された操作とは相性が悪いのです。

現在、RHEL や SLES あるいは Ubuntu のデフォルトのデスクトップは GNOME 3 が採用されています。Windows とは操作が全く違う GNOME デスクトップが、エンタープライズ用途の Linux に採用されていることは大変興味深いことです。

もちろん、Linux でデスクトップを選択する自由は確保されており、Ubuntu をベースとした数々のディストロなどが個人ユーザのニーズを満たしています。

SUSE

1992 年に設立された SuSE は、経営母体がたびたび変わってきました。詳しくは下記の記事を参照してください。

記事によると、経営母体が変わる中でも SUSE 社は着実に発展してきているようです。Red Hat 社が IBM 社に買収されたことで、SUSE は世界最大の独立したオープンソースソフトウェア (OSS) 企業になると SUSE 社の当時の CEO、Nils Brauckmann 氏は主張しています。

近年の日本に関わる SUSE の記事をピックアップしました。

日本における SUSE 社のビジネスの展開はまだまだこれからという感ですが、Red Hat 社と同様にサブスクリプションを採用している他に、他企業とのパートナープログラムやトレーニングプログラムもあります。

企業の基幹システムである ERP 分野においてトップ企業であるドイツの SAP 社との協業関係が長い SUSE は、2019 年 8 月には SAP の COO(最高執行責任者)兼デジタルコアソリューション CRO(最高売上責任者)を務めていた Melissa Di Donato 氏が SUSE の CEO に就任しました。今後ますます SAP 社と SUSE 社の関係は強くなっていくでしょう。

Red Hat 社と異なるのは、SUSE Linux Enterprise と、コミュニティ版である openSUSE Linux との関係です。

RedHat 社の Red Hat Enterprose Linux (RHEL) の場合は、開発版としてコミュニティベースの Fedora プロジェクトがあり、このプロジェクトの成果を RHEL へ反映しています。RHEL と互換性があり、無償で公開されているコミュニティ版の CentOS は、RHEL のソースを別環境でコンパイルし直したパッケージです。これら 3 種類のディストロは個別にビルドされているので、バイナリレベルでは共有されていません。

ところが openSUSE Leap と SUSE Linux Enterprise (SLE) は、今後ソースをシェアするだけでなく、SLE のバイナリを openSUSE Leap に含められるようにするとのこと。製品版とコミュニティ版との境目が曖昧になりますが、今後どのように双方の関係が発展していくのか注目していきたいです。

ちなみに SLES は Windows のサブシステム (WSL) として稼働させられます。

Canonical

Canonical 社が支援する Ubuntu は、最もポピュラーな Linux ディストロです。Canonical 社は Mark Shuttleworth 氏が所有する非公開の会社です。Ubuntu のエンタープライズ用途に関わるサイトをピックアップしました。

たしかに、パートナープログラムはあります。Ubuntu Advantage にはサブスクリプションのビジネスモデルが採用されているようですが、無料でアカウントを登録できるようになっておらず、踏み込んだ調査をしていません。上の「プランと価格」のサイトで詳細を見ると、Red Hat 社や SUSE 社とそう遜色のないサポートのようにも見えます。

ちょっと古いですが、下記の記事で Canonical 社の CEO, Mark Shuttleworth 氏が Canonical 社のビジネスモデルについて語っています。

Shuttleworth 氏は、ビジネスモデルはサポートサービスを売ることで、他のオープンソースソフトウェアのベンダーとは違いはないと述べています。

それでも、会社の規模にまだ差があるからなのか、それとも、二年ごとにリリースされる長期サポート版 (LTS) とその間に半年ごとにリリースされる版で開発的な部分を担っているというリリース形態だからなのか、Red Hat 社や SUSE 社と同じようにして収益をあげていると言い切るには、しっくりとこない部分があります。

下記もちょっと古いですが、この記事によると Canonical 社もRed Hat 社と同様に専門的なサポートサービスで多くの収入を得ているということです。

Ubuntu は人気があるが故、デスクトップ環境などが違うが Ubuntu と同じリポジトリを使用する派生ディストロが数多く存在します。このことが Red Hat 社や SUSE 社のディストロと異なるように見えるだけなのかもしれません。

なお、Ubuntu も Windows のサブシステム (WSL) として稼働させられます。

参考サイト

最近の Linux に関わる動向をピックアップしました。

  1. Ubuntu急増でLinux押し上げ - 4月デスクトップOSシェア | マイナビニュース [2020-05-03]
  2. NVIDIAがLinuxベースのネットワークOS開発のCumulus Networksを買収 | TechCrunch Japan [2020-05-05]
  3. IBMの社長となったホワイトハースト氏が語る“Red Hatの価値” - クラウド Watch [2020-05-07]
  4. ASCII.jp:Red Hat、IBMとのタッグで「オープンハイブリッドクラウド」推進 [2020-05-11]

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