ただ楽しむためだけに彼が始めたカーネルは今や、6 千万以上の人々の PC デスクトップやそれ以上の台数のウェブサーバの OS の一部として稼動している。
リンク切れでたどれませんでしたが、これは Abramson, Ronna (2004年12月15日) の記事です。
Linus B. Torvalds 氏の楽しみから始まった Linux カーネルはますます発展を続け、今やウェブサーバの OS にとどまらず、クラウド環境を支える重要なインフラになっています。本ブログ記事では、エンタープライズ用途で利用できる Linux ディストロをピックアップして紹介します。
今回は Red Hat 社の Red Hat Enterprise Linux と、その互換 OS を紹介します。
Red Hat Enterprise Linux (RHEL)
IBM 傘下になった Red Hat 社は、同社の Red Hat Linux を収録したメディアを販売することから始まりましたが、「もの」から「サービス」を販売することにビジネスを転換し、市場を広げながら発展を遂げてきました [1]。現在、Red Hat 社は、同社が開発する Red Hat Enterprise Linux をベースにして、さまざまなサービスを提供しています。
エンタープライズ用途とは何か?について、こうだと明確に答えることはできません。しかし、無料の Linux ディストロと異なる点についてまとめれば、エンタープライズ用途に求められることは何かが見えてくるはずです。
Red Hat サブスクリプション
サブスクリプション (subscription) とは、料金を支払うことによって一定期間サービスを使う「権利」を得られるビジネスモデルのことです。Red Hat 社は、ソフトウェアのアップデート・アップグレード・保守サポートなどが一体化されたサブスクリプション(年間契約費)を販売するというビジネスモデルを採用しています。下記に、Red Hat サブスクリプションについての FAQ がまとめられています。
Red Hat サブスクリプションを利用するには、Red Hat カスタマーポータルにアクセスするためのアカウントを作成する必要があります。下記のサイト(言語が選択できます)の右上にあるアカウントのアイコンをクリックして「登録」ボタンをクリックするとアカウント作成画面が表示されます。
必要事項を記入してアカウントを作成します。なお、アカウント作成は無料です。🤗
大変ありがたいことに、テスト・評価用の 'Red Hat Developer Subscription' という一年間無料のサブスクリプションが利用できます。一年間という期間の指定があるものの、Red Hat のソフトウェア製品を、パッケージのアップデートを含めて機能制限なしに利用することができます。
ここでは、最新の Red Hat Enterprise Linux を仮想環境 (GNOME Boxes) へインストールしました。
なお、Red Hat Enterprise Linux 8.2 は下記のプラットフォームに対応していますが、ここでは Intel 64bit (x86_64) のプラットフォーム上で確認しています。
- AMD and Intel 64-bit architectures
- The 64-bit ARM architecture
- IBM Power Systems, Little Endian
- IBM Z
無料の Linux ディストロと違う点は、サブスクリプションの状態が管理されていることです。アプリの一覧から「Red Hat サブスクリプション」アプリを選ぶと、現在の登録状況が表示されます。
上図では Service Level が Self-Support、Usage が Development/Test になっています。評価後にこのシステムで本格運用するとなれば、有料のサブスクリプションを購入することになります。Self-Support、つまり Red Hat 社からのサポート無し(ただしアップデートパッケージの利用はできます)で良い場合は、US$99/year からの費用で Red Hat Enterprise Linux を利用できます。
個人的には十分魅力的な価格設定と思いますが、企業がサポート付きのサブスクリプションを大量に購入する場合には、十分な検討が必要です。
10 年の長期サポート
最新の Red Hat Enterprise Linux(以下 RHEL と表します)は 10 年間のメンテナンスサポートが保証されています。言い換えると、カーネルをはじめとするコアのパッケージについては、基本的に 10 年間はバージョンを変えずにセキュリティファイックスがされ続けるということです。現在の RHEL8 の場合、半年毎にマイナーバージョンアップし、8.1, 8.2, ... とバージョン番号が上がっていきます。
※ RHEL 互換を目指すフリーな CentOS も 10 年間のメンテナンスサポートが保証されています。
ソフトウェア企業でシステムを開発するのに、OS 選定から社内評価、そして客先でのベータ評価にこぎつけるまで、規模にもよりますが 1〜2 年は直ぐに経ってしまいます。OS の新バージョンのリリース時に合わせて、タイミングよくシステムの開発を始められればよいのですが、そんなことは稀でしょう。変化の激しい IT 業界ですが、それでも 10 年のサポートがあれば、それより短いライフサイクルのソフトウェア製品に対しては、安心して開発、保守ができると言えましょう。また、ミッションクリティカルな分野では、パッケージのバージョンアップよりも安定して使い続けることが求められている場合があり、そういう場合、10 年間のメンテナンスサポートは魅力的です。
一方、分野によっては運用期間中に比較的新しい環境(例えば、データベースエンジン更新によるパフォーマンス向上)へ移行を実施した方が良い場合もあるでしょう。RHEL8 ではアプリケーションストリームを利用してパッケージのバージョンアップをすることもできます。
システム (RHEL) のバージョンアップやハードウェアを更新する場合は、既存のサブスクリプションを割り付け直すことができます。
RHEL の製品群(ポートフォリオ)
RHEL8 を仮想環境にインストールしましたが、テスト・評価用サブスクリプション 'Red Hat Developer Subscription' で評価可能なソフトウェア製品は数多くあります。ビジネスの目的に応じて、最適な構成の OS を選択できるようになっています。
- dotNET on RHEL (for RHEL Server)
- dotNET on RHEL Beta (for RHEL Server)
- MRG Realtime
- Oracle Java (for RHEL Server)
- Oracle Java (for RHEL Server) - Extended Update Support
- Red Hat Ansible Engine
- Red Hat Beta
- Red Hat CodeReady Linux Builder for ARM 64
- Red Hat CodeReady Linux Builder for x86_64
- Red Hat CodeReady Linux Builder for x86_64 - Extended Update Support
- Red Hat Container Development Kit
- Red Hat Container Images
- Red Hat Container Images Beta
- Red Hat Developer Tools (for RHEL Server)
- Red Hat Developer Tools Beta (for RHEL Server)
- Red Hat Developer Toolset (for RHEL Server)
- Red Hat Enterprise Linux Atomic Host
- Red Hat Enterprise Linux Atomic Host Beta
- Red Hat Enterprise Linux for ARM 64
- Red Hat Enterprise Linux for Real Time
- Red Hat Enterprise Linux for SAP Applications for x86_64
- Red Hat Enterprise Linux for SAP HANA for x86_64
- Red Hat Enterprise Linux for x86_64
- Red Hat Enterprise Linux for x86_64 - Extended Update Support
- Red Hat Enterprise Linux High Availability - Update Services for SAP Solutions
- Red Hat Enterprise Linux High Availability for x86_64
- Red Hat Enterprise Linux High Availability for x86_64 - Extended Update Support
- Red Hat Enterprise Linux High Performance Networking (for RHEL Compute Node)
- Red Hat Enterprise Linux High Performance Networking (for RHEL Server)
- Red Hat Enterprise Linux High Performance Networking (for RHEL Server) - Extended Update Support
- Red Hat Enterprise Linux Load Balancer (for RHEL Server)
- Red Hat Enterprise Linux Load Balancer (for RHEL Server) - Extended Update Support
- Red Hat Enterprise Linux Resilient Storage for x86_64
- Red Hat Enterprise Linux Resilient Storage for x86_64 - Extended Update Support
- Red Hat Enterprise Linux Scalable File System (for RHEL Server)
- Red Hat Enterprise Linux Scalable File System (for RHEL Server) - Extended Update Support
- Red Hat Enterprise Linux Server
- Red Hat Enterprise Linux Server - Update Services for SAP Solutions
- Red Hat EUCJP Support (for RHEL Server) - Extended Update Support
- Red Hat S-JIS Support (for RHEL Server) - Extended Update Support
- Red Hat Software Collections (for RHEL Server)
- Red Hat Software Collections Beta (for RHEL Server)
- RHEL for SAP (for IBM Power LE) - Update Services for SAP Solutions
- RHEL for SAP - Extended Update Support
- RHEL for SAP - Update Services for SAP Solutions
- RHEL for SAP HANA - Extended Update Support
- RHEL for SAP HANA - Update Services for SAP Solutions
製品全てを知っているわけではないのですが、日本語の文字コード (EUCJP, S-JIS) に付いて、延長更新サポートの製品があることは興味深いです。
日本語エンコードは、UTF-8 などの Unicode 系エンコード化の波に取り残されてしまったと思っていましたが、官公庁のシステムなのか、勘定系システムなのか、EUC-JP や Shift JIS から移行できないシステムが残っているのでしょう、2005 年 2 月 15 日にリリースされた RHEL4 以降のサポートが続けられています。
サポート
Red Hat サブスクリプションには、サポートサービスが含まれています。利用可能なサポートレベルには、Premium、Standard、および Self-support(特定の地域および Red Hat Enterprise Linux Server Entry Level でのみ利用可能)があります。
Premium | Standard | |
---|---|---|
対象時間 | 重大度 1 と 2 の場合は年中無休 | 通常の営業時間 |
ケース数 | Web および電話 | Web および電話 |
ソフトウェアの保守 | 無制限 | 無制限 |
必要な情報 | Red Hat カスタマーポータルより | Red Hat カスタマーポータルより |
Red Hat 社から実際にサポートを受けたことがないので、サポート内容の善し悪しについてはなにもコメントできません。
Oracle Linux
Oracle Linux は、オラクルによる Red Hat Enterprise Linux (RHEL) をベースとした Linux ディストリビューション (RHEL クローン) の一つです。下記サイトの Download Oracle Linux のリンクをクリックして、Oracle アカウントでログインするとダウンロードサイトが表示されます。
Oracle Linux 8.1 の ISO ファイルをダウンロードして仮想環境にインストールしました。その後の更新で 8.2 にアップグレードされました(5 月 6 日時点)。未登録の状態ですがパッケージの更新はできています。
なお、Oracle Linux 8.2 は下記のプラットフォームに対応していますが、ここでは Intel 64bit (x86_64) のプラットフォーム上で確認しています。
- x86_64 platform (Intel and AMD)
- 64-bit Arm (aarch64)
- developer preview release only(開発版レビューのみ)
Oracle Linux の名前が付いている製品群を調べるとだいたい以下のようになっています。
- Oracle Linux
- Oracle Linux KVM Templates for Oracle Linux
- Oracle Linux Virtual Machine Image for Openstack
- JeOS Oracle Linux
- Oracle OpenStack For Oracle Linux
- Oracle RAC with Oracle Linux
- Oracle Business Intelligence Enterprise Edition for Oracle Linux
- Oracle Secure Global Desktop with Oracle Linux
- Oracle Value Chain Planning Release for Oracle Linux
Oracle Linux を利用するメリットは、Oracle の他の製品を Linux 上で稼動させるときに最も高いパフォーマンスが得られることを期待できることです。
CentOS
CentOS は、Red Hat Enterprise Linux と機能的に互換性があることを目指したフリーの Linux ディストリビューションです。現在、Red Hat 社は CentOS プロジェクトを支援しています。
CentOS のインストールイメージは下記の CentOS のプロジェクトサイトからダウンロードできます。
最新の CentOS (8.1-1911) を仮想環境にインストールしてみました。
なお、CentOS 8.1-1911 は下記のプラットフォームに対応していますが、ここでは他と同様 Intel 64bit (x86_64) のプラットフォーム上で確認しています。
- aarch64
- ppc64le
- x86_64
CentOS のバリエーションは以下のようになっています。
- CentOS
- RHEL 互換でサポート期間の考え方も同じ
- CentOS Stream
- ローリングリリース版
- CentOS Atomic Host
- コンテナを利用することに特化(RHEL Atomic Host に対応)
参考サイト
- IBM傘下になったレッドハット、これまでの軌跡とこれから - ZDNet Japan [2019-08-06]
- Red Hat Enterprise Linux 8 リリース! - 赤帽エンジニアブログ [2019-05-08]
- Red Hat and the CentOS Project Join Forces to Speed Open Source Innovation [2014-01-07]
- 25歳になったRed HatはLinuxの先を見つめる | TechCrunch Japan [2018-04-02]
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