2021-09-20

RHEL 互換の Linux

※ 2021-05-03 のブログ記事「bitWalk's: RHEL 互換の Linux」の内容を新しくしました。

Red Hat Enterprise Linux, RHEL は、Red Hat 社によって開発されている、エンタープライズ市場向けの Linux ディストリビューションです。最近の RHEL のライフサイクルは 10 年で、延長が必要であれば追加サブスクリプション (Extended Lifecycle Support Add-On) も提供されます。

Wikipedia より引用、翻訳、編集
Red Hat Enterprise Linux 8.4 のデスクトップ画面

Red Hat 社は RHEL に含まれているソフトウェアのソースコードをオープンソースライセンスに基づき無償公開しています。そのため、Red Hat 社の商標や商用パッケージ等を含めずに、RHEL とバイナリレベルで互換の Linux OS を構築することが可能で、実際にいくつもの RHEL 互換の OS が公開されています。

現在の RHEL 互換ディストロについてまとめました[ABC 順]。

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AlmaLinux

AlmaLinux は CloudLinux チームによって開発されている RHEL 8 のバイナリ互換のフォークで、コミュニティと密接に協力して開発するコミュニティのためのフリーの Linux OS です。ラテン語で「魂」を意味する言葉にちなんで名付けられた AlmaLinux は、GitHub のページを通じてコミュニティの協力を得ながら開発が進められています。

対応しているアーキテクチャは x86_64 と ARM64 (aarch64) です。

AlmaLinux 8.4 のデスクトップ画面

CloudLinux, Inc. は CentOS オペレーティングシステムをベースに CloudLinux OS を開発し、共有ホスティングプロバイダ向けに販売しています。CloundLinux OS は OpenVZ カーネルを使用しています。

CloudLinux のチームが CentOS に代わる RHEL クローンを開発するのは、CloudLinux OS が CentOS をベースにしていることが最大の理由なのでしょう。コミュニティベースの活動になるように公開されていることはありがたいことです。

移行ツール

CentOS から AlmaLinux へ移行するツールが下記のサイトに公開されています。

CentOS

CentOS はコミュニティーベースのプロジェクトで RHEL のソースコードを元に再構築した、無料のディストリビューションです。Red Hat 社は、CentOS プロジェクトを支援しています [1]

CentOS 8.4.2105 のデスクトップ画面

昨年の 12 月 8 日、CentOS プロジェクトは、現在の RHEL リリースより先行する CentOS Stream へとプロジェクトの活動の焦点を移し、RHEL 8 のリビルドである CentOS Linux 8 のサポートを 2021 年末に終了して、CentOS Stream の開発にシフトするという発表をしました。

ちなみに、CentOS Stream については、下記に詳しく説明されています。

EuroLinux

EuroLinux は、RHEL のソースコードをベースにしたエンタープライズクラスの Linux オペレーティングシステムで、RHEL と機能的な互換性があります。EuroLinux Sp. z o.o.というポーランドの会社が開発、公開しています。

EuroLinux 8.4 のデスクトップ画面

Oracle Linux

Oracle Linux は Oracle 社が開発、配布している Red Hat Enterprise Linux (RHEL) をベースとした Linux ディストリビューションです。Oracle Linux は x86-64 と AMD64 アーキテクチャに対応しており、RHEL 互換の Red Hat Compatible Kernel (RHCK) と、Oracle 製品に最適化した Unbreakable Enterprise Kernel (UEK) の二種類のカーネルを選択できます。

Oracle Linux Server 8.4 のデスクトップ画面

RHEL 互換とは言え Oracle 製品に最適化した Unbreakable Enterprise Kernel (UEK) がデフォルトになっていることから、Oracle ブランドの OS という印象が強いですが、Red Hat Compatible Kernel (RHCK) も利用できるので、コミュニティベースの OS にこだわらなければ、RHEL 互換のディストリビューションとして十分評価に値すると思います。

起動時の grub メニュー画面

移行ツール

CentOS から Oracle Linux へ移行するツールが下記のサイトに公開されています。

Rocky Linux

Rocky Linux は Red Hat Enterprise Linux (RHEL) オペレーティングシステムのソースコードをビルドし直すことで、RHEL と完全なバイナリ互換性を持つことを意図しています。このプロジェクトの目的は、コミュニティでサポートされた、製品グレードのエンタープライズ用途の OS を提供することです。対応しているアーキテクチャは x86_64 と ARM64 (aarch64) です。

Rocky Linux 8.4 のデスクトップ画面

RHEL のソースコードをビルドした従来の CentOS の未来が無くなったことを受け、CentOS の創設者の一人である Gregory Kurtzer 氏が、CentOS の初期の目標を達成するために Rocky Linux プロジェクトを立ち上げました。この名称は共同創設者である Rocky McGaugh にちなんで名付けられました。

RHEL のサポートと同じく 10 年使い続けられるコミュニティベースのディストリビューションの存在は頼もしいことですが、コミュニティでプロジェクトを永続的に維持し続けることができるか、人ごとみたいでなんですが、とても興味があるところです。

Rocky Linux は、コミュニティベースのプロジェクトであることを謳っていますが、プロジェクトの活動を維持するには資金が必要です。プロジェクトのスポンサーは下記にまとめられています。

Rocky Linux プロジェクトのスポンサー企業

Springdale Linux

Springdale Linux は RHEL をベースにした Linux ディストリビューションで、プリンストン大学プリンストン高等研究所 (IAS)で開発されています。以前は PUIAS Linux として知られていました。このディストロは、CentOS などの RHEL クローンより前に始まっているプロジェクトです。RHEL に含まれていないリポジトリも提供されています。

Springdale Linux 8.4 のデスクトップ

学術的用途のためか、いままで聞いたことのなかったディストリビューションです。CentOS から他の無料の RHEL クローンに乗り換える場合で、スポンサー企業の影響を嫌うのであれば、Springdale Linux も候補になるのではないでしょうか。

VzLinux

VzLinux (Virtuozzo Linux) は Virtuozzo(バーチュオッゾ)社によって公開されている RHEL 互換の Linux ディストロです。Virtuozzo 社は、仮想化ソフトウェアに特化した株式非公開のソフトウェア企業です。Virtuozzo 社は、2000 年に初めて商用利用可能な OS レベルの仮想化コンテナ技術を開発し、2005 年に OpenVZ としてオープンソース化されました。

VzLinux 8.4 のデスクトップ

各ディストリビューションの比較

各ディストリビューションがサポートしている CPU アーキテクチャなどをまとめました。

Linux CPU Architecture 備考
x86_64 ARM64 IBM Power IBM Z
Red Hat Enterprise Linux (RHEL) 8 サブスクリプション(有償)
AlmaLinux 8 有償サポート有
CentOS 8 2021 年 12 月末でサポート終了
Euro Linux 8 有償サポート有
Oracle Linux 8 有償サポート有
Rocky Linux 8 MontaVista Software 社などからの有償サポートあり
Springdale Linux 8
VzLinux 8 (有償サポート有)

勝手に考察

Red Hat 社が CentOS プロジェクトのメンバーの一部を Red Hat 社員として雇用して CentOS プロジェクトを支援すると発表した時は、オープンソースの活動に対する寛大な態度に驚嘆しました。もう7年も前のことです。

勝手な推測ですが、資金難、人材難にあえぐオープンソース・プロジェクトを、利益相反することを厭わず Red Hat 社が救済したのだと捉えていました。

その Red Hat 社が IBM 傘下になった後、2021 年末に CentOS の開発を終了すると発表したことは、タイミングが中途半端だったにせよ、仕方がないことかもしれないと思いました。

この発表にコミュニティからは非難の嵐と報じられ、Red Hat 社は、一年間の移行期間を確保しての発表だったにもかかわらず、すっかり悪者にされてしまいました。しかし、批判をする多くのユーザは、オープンソースの活動に大した貢献もせずに、オープンソースの成果を無料(タダ)で貪っているだけの人が多いのではないかと、これまた勝手に推測してしまいました。ま、自分もその類に含まれるのですが…。😅

CentOS プロジェクトへの支援は自社の利益にならない

Red Hat 社にとって、Red Hat Enterprise Linux (RHEL) こそが正式な Linux 製品であって、CentOS はあくまで支援プロジェクトでした。しかし、Red Hat 社が支援しているが故に、CentOS が RHEL クローンとしてのお墨付きを得ているというような認識を世間に与えてしまっているとすれば、支援によって自社ブランドを毀損してしまうことになります。

例えば、RHEL 7 と CentOS 7 について、著者こそ違えど、同じシリーズの本で出版されることについて、Red Hat 社はどう考えていたのでしょう。

節操が無い出版社をはじめ、無料のクローン OS に群がる世間の行為が、Red Hat 社を CentOS 開発中止へ追い込んだのではないかというような議論が、ニュースで見つからなかったのが残念です。

ビジネスに必要不可欠なオープンソース

でも成り行きを見ると、Red Hat 社の決断は妥当だったと思えるのです。

CentOS をベースに OpenVZ カーネルを採用した CloudLinux OS でビジネスを展開している CloudLinux 社は、CentOS の代替になる AlmaLinux プロジェクトを立ち上げました。CentOS 開発終了の発表後、3ヵ月程度で CentOS 8.3 相当の AlmaLinux 8.3 の一般公開を実現しています。

遅れること一ヶ月、コミュニティが立ち上げた Rocky Linux プロジェクトも Rocky Linux 8.3 のリリース候補 RC1 を公開しました。

コミュニティベースの Rocky Linux は AlmaLinux と違って企業色が無いかと言えば、そうでもありません。プロジェクトのスポンサー企業の一社は Amazon Web Services (AWS) です。直接 Rocky Linux の名称で利用されるかどうかはともかく、将来 AWS のシステムに寄与することは明白です。

MontaVista 社も Rocky Linux プロジェクトのスポンサー企業ですが、CentOS をサポートしている企業です。

いずれにしても、RHEL クローンはビジネスに必要不可欠な OS のひとつになっていて、今では Red Hat 社が自社製品のクローン・プロジェクトを支援しなくとも、他社が RHEL クローンの開発プロジェクトの支援をできるようになったと言えます。

もしも最初の CentOS 8 (8.0-1905) をリリースせずに、CentOS の開発終了を発表していたらどうなっていたでしょう。クローンの見本がない状況で、こうも早く一般公開までこぎつけられていたかどうか。いや、Oracle Linux や Springdale Linux があるので、それはわかりませんが、少なくとも危機感は違っていたでしょう。

参考サイト

  1. Red Hat と CentOS プロジェクトが協力してオープンソースのイノベーションを加速 [2014-01-15]
  2. Product Documentation for Red Hat Enterprise Linux 8 | Red Hat Customer Portal
  3. Red Hat Enterprise Linux derivatives - Wikipedia

 

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2 件のコメント:

匿名 さんのコメント...

んー、CentOS廃止の話が出て随分経ちましたが、
今その擁護論は後出し優等生感がありますな。

bitWalk さんのコメント...

匿名さん、
コメントをありがとうございます。 元記事は5月初めに書いて、今回、主たる部分を新しくしたのですが、ご指摘の部分はほぼそのままなんです。

でも、まあ後出しジャンケン的ですよね。😅