Red Hat Enterprise Linux, RHEL は、Red Hat 社によって開発、販売されているエンタープライズ用途の Linux ディストリビューションで、リリースされてから 10 年間、セキュリティアップデートを含めたサポートを有償で受けることができます。Red Hat 社は、RHEL が利用しているオープンソースのライセンスに従うパッケージを SRPM 形式で公開しています [1]。
公開されている SRPM パッケージを再ビルドすることで、RHEL とある程度の互換性を持った Linux ディストロを構築することが可能です。そのため、RHEL 互換をうたう Linux ディストロは、いくつも存在しています。
今回は、ブログを読んだ読者から頂いたコメントをきっかけに、そんな RHEL 互換のディストロのバージョン表記についてまとめてみました。
匿名さんからのコメント
本ブログ記事 [2](CentOS 8.2105 リリース [2021-06-03])で CentOS のリリースを紹介した時、匿名さんから以下のようなコメントをいただきました。
CentOS 8.4.2105 の間違いではありませんか?
匿名さんからのご指摘はもっともです。
ただ、CentOS のバージョン表記については、迷うところがあったので 8.2105 としてしまったのです。この機会に、RHEL 互換のディストロのバージョン表記について調べ直しました。その中で、なぜ CentOS でバージョン表記に悩んだのかも説明します。
本家 RHEL のバージョン表記
RHEL 互換ディストロを調べる前に、ベースラインとして、まず、本家 RHEL のバージョンについて調べました。
OS の名称、バージョンの情報は、/etc/os-release ファイルの内容で確認できます。
[bitwalk@rhel-vm ~]$ cat /etc/os-release NAME="Red Hat Enterprise Linux" VERSION="8.4 (Ootpa)" ID="rhel" ID_LIKE="fedora" VERSION_ID="8.4" PLATFORM_ID="platform:el8" PRETTY_NAME="Red Hat Enterprise Linux 8.4 (Ootpa)" ANSI_COLOR="0;31" CPE_NAME="cpe:/o:redhat:enterprise_linux:8.4:GA" HOME_URL="https://www.redhat.com/" DOCUMENTATION_URL="https://access.redhat.com/documentation/red_hat_enterprise_linux/8/" BUG_REPORT_URL="https://bugzilla.redhat.com/" REDHAT_BUGZILLA_PRODUCT="Red Hat Enterprise Linux 8" REDHAT_BUGZILLA_PRODUCT_VERSION=8.4 REDHAT_SUPPORT_PRODUCT="Red Hat Enterprise Linux" REDHAT_SUPPORT_PRODUCT_VERSION="8.4" [bitwalk@rhel-vm ~]$ ll /usr/lib/os-release -rw-r--r--. 1 root root 589 3月 31 17:28 /usr/lib/os-release [bitwalk@rhel-vm ~]$ rpm -qf /usr/lib/os-release redhat-release-8.4-0.6.el8.x86_64 [bitwalk@rhel-vm ~]$
デスクトップ環境を利用していれば、GNOME の「設定」→「詳細」→「情報」で OS 名とバージョンを確認できます。
neofetch コマンドでシステム情報を確認することもできます。
同じことを、下記の RHEL 互換ディストロ(ABC 順)でも確認しました。
--- OUTLINE ---
AlmaLinux
AlmaLinux は CloudLinux チームによって開発されている RHEL 8 のバイナリ互換のフォークで、コミュニティと密接に協力して開発するコミュニティのためのフリーの Linux OS です。ラテン語で「魂」を意味する言葉にちなんで名付けられました。
[bitwalk@almalinux ~]$ cat /etc/os-release NAME="AlmaLinux" VERSION="8.4 (Electric Cheetah)" ID="almalinux" ID_LIKE="rhel centos fedora" VERSION_ID="8.4" PLATFORM_ID="platform:el8" PRETTY_NAME="AlmaLinux 8.4 (Electric Cheetah)" ANSI_COLOR="0;34" CPE_NAME="cpe:/o:almalinux:almalinux:8.4:GA" HOME_URL="https://almalinux.org/" DOCUMENTATION_URL="https://wiki.almalinux.org/" BUG_REPORT_URL="https://bugs.almalinux.org/" ALMALINUX_MANTISBT_PROJECT="AlmaLinux-8" ALMALINUX_MANTISBT_PROJECT_VERSION="8.4" [bitwalk@almalinux ~]$
CentOS
CentOS はコミュニティーベースのプロジェクトで RHEL のソースコードを元に再構築した、無料のディストリビューションです。
昨年の 12 月 8 日、CentOS プロジェクトは、現在の RHEL リリースより先行する CentOS Stream へとプロジェクトの活動の焦点を移し、RHEL 8 のリビルドである CentOS Linux 8 のサポートを 2021 年末に終了するという発表をしました [3]。
[bitwalk@centos-pc ~]$ cat /etc/os-release NAME="CentOS Linux" VERSION="8" ID="centos" ID_LIKE="rhel fedora" VERSION_ID="8" PLATFORM_ID="platform:el8" PRETTY_NAME="CentOS Linux 8" ANSI_COLOR="0;31" CPE_NAME="cpe:/o:centos:centos:8" HOME_URL="https://centos.org/" BUG_REPORT_URL="https://bugs.centos.org/" CENTOS_MANTISBT_PROJECT="CentOS-8" CENTOS_MANTISBT_PROJECT_VERSION="8" [bitwalk@centos-pc ~]$
不思議な事に CentOS では 8.4 という記載がありません。2105 というリリース年、月を表す記載もここにはありません。
CentOS のリリースアナウンスにも、CentOS 8.4 と記載されておらず、Release for CentOS Linux 8 (2105) となっています。さらに、... this is the current release for CentOS Linux 8 and is tagged as 2105, derived from Red Hat Enterprise Linux 8.4 Source Code.(... これは、CentOS Linux 8 の最新リリースで、Red Hat Enterprise Linux 8.4 のソースコードを元にしており 2105 というタグが付けられています。)と説明されています。
一方、公開されているインストール用の iso イメージ、例えば CentOS-8.4.2105-x86_64-dvd1.iso というように、ファイル名に 8.4.2105 が含まれています。そういう意味で、前述の匿名さんのご指摘は正しいのです。
ちなみに、Wikipedia では 8.4-2105 と表記されています。
バージョンの表現がいろいろあってややこしいのですが、CentOS のバージョンの呼称については下記の CentOS Wiki の FAQ に説明がされています。
- FAQ/General - CentOS Wiki: 29. How does CentOS versioning work?
上記 FAQ を要約すると、
- CentOS プロジェクトでは、各メジャーブランチの最新バージョンに対してのみ、アップデートやその他の変更を提供しています。
- CentOS のマイナーバージョンは、メジャーブランチのある時点でのリリースであるため、CentOS-7 からマイナーバージョンに日付コードを使用しています。そのため、バージョンとして CentOS-7 (1406) や CentOS-7 (1503) と表示されます。
- CentOS Linux の各マイナーバージョンの作成に Red Hat Enterprise Linux のどのソースコードが使用されたかは、http://wiki.centos.org/Download の "Archived Versions" と題された表で確認することができます。
つまり、最新 CentOS 8 のバージョンを含む正式な表現は、CentOS Linux 8 (2105) になるのだと思います。今年 12 月末に CentOS 8 は EOL を迎えるので、いまさらどうでも良いことなのかもしれませんが、はっきりさせておきたかったので調べました。
Oracle Linux
Oracle Linux は Oracle 社が配布している Red Hat Enterprise Linux (RHEL) をベースとした Linux ディストリビューションです。Red Hat Compatible Kernel (RHCK) と、Oracle 製品に最適化した Unbreakable Enterprise Kernel (UEK) の二種類のカーネルを選択できます。
[bitwalk@oracle ~]$ cat /etc/os-release NAME="Oracle Linux Server" VERSION="8.4" ID="ol" ID_LIKE="fedora" VARIANT="Server" VARIANT_ID="server" VERSION_ID="8.4" PLATFORM_ID="platform:el8" PRETTY_NAME="Oracle Linux Server 8.4" ANSI_COLOR="0;31" CPE_NAME="cpe:/o:oracle:linux:8:4:server" HOME_URL="https://linux.oracle.com/" BUG_REPORT_URL="https://bugzilla.oracle.com/" ORACLE_BUGZILLA_PRODUCT="Oracle Linux 8" ORACLE_BUGZILLA_PRODUCT_VERSION=8.4 ORACLE_SUPPORT_PRODUCT="Oracle Linux" ORACLE_SUPPORT_PRODUCT_VERSION=8.4 [bitwalk@oracle ~]$
Oracle Linux Server は、用途を特定したエディションなどを示す VARIANT フィールドに "Server" (VARIANT="Server") を指定して、サーバー用途であることを明示しています。
Rocky Linux
Rocky Linux は Red Hat Enterprise Linux (RHEL) オペレーティングシステムのソースコードをビルドし直すことで、RHEL と完全なバイナリ互換性を持つことを意図しています。このプロジェクトの目的は、コミュニティでサポートされた、製品グレードのエンタープライズ用途の OS を提供することです。
[bitwalk@rocky-pc ~]$ cat /etc/os-release NAME="Rocky Linux" VERSION="8.4 (Green Obsidian)" ID="rocky" ID_LIKE="rhel fedora" VERSION_ID="8.4" PLATFORM_ID="platform:el8" PRETTY_NAME="Rocky Linux 8.4 (Green Obsidian)" ANSI_COLOR="0;32" CPE_NAME="cpe:/o:rocky:rocky:8.4:GA" HOME_URL="https://rockylinux.org/" BUG_REPORT_URL="https://bugs.rockylinux.org/" ROCKY_SUPPORT_PRODUCT="Rocky Linux" ROCKY_SUPPORT_PRODUCT_VERSION="8" [bitwalk@rocky-pc ~]$
cat /etc/os-release の出力で、CPE_NAME が、"cpe:/o:rocky:rocky:8.4:GA" になっています。GA とは General Availability の略で正式版の公開を指しますが、本記事を書いている時点 [2021-06-20] では、Rocky Linux 8.4 はまだ Release Candidate(リリース候補)です。😅
Springdale Linux
Springdale Linux は RHEL (Red Hat Enterprise Linux) をベースにした Linux ディストリビューションで、プリンストン大学とプリンストン高等研究所 (IAS)で開発されています。以前は PUIAS Linux として知られていました。
[bitwalk@springdale ~]$ cat /etc/os-release NAME="Springdale Open Enterprise Linux" VERSION="8.4 (Modena)" ID="rhel" ID_LIKE="fedora" VERSION_ID="8.4" PLATFORM_ID="platform:el8" PRETTY_NAME="Springdale Open Enterprise Linux 8.4 (Modena)" ANSI_COLOR="0;31" CPE_NAME="cpe:/o:springdale:enterprise_linux:8.4:GA" HOME_URL="https://springdale.princeton.edu/" BUG_REPORT_URL="https://springdale.princeton.edu/bugzilla" REDHAT_BUGZILLA_PRODUCT="Springdale Open Enterprise Linux 8" REDHAT_BUGZILLA_PRODUCT_VERSION=8.4 REDHAT_SUPPORT_PRODUCT="Springdale Open Enterprise Linux" REDHAT_SUPPORT_PRODUCT_VERSION="8.4" [bitwalk@springdale ~]$
Springdale Linux の正式名称は、/etc/os-release の出力の PRETTY_NAME にあるように Springdale Open Enterprise Linux なんですね。ちなみに略名は SDL と呼ばれているようです。
VzLinux
Virtuozzo(バーチュオッゾ)社は、仮想化ソフトウェアに特化した株式非公開のソフトウェア企業です。Virtuozzo は、2000 年に初めて商用利用可能な OS レベルの仮想化コンテナ技術を開発し、2005 年に OpenVZ としてオープンソース化しました。
Virtuozzo 社は、5 月 28 日に最新の VzLinux オペレーティングシステム (VzLinux 8) を一般公開しました [1]。これは CentOS に代わる RHEL 8 互換のディストロです。
[bitwalk@vzlinux-pc ~]$ cat /etc/os-release NAME="Virtuozzo Linux" VERSION="8" ID="virtuozzo" ID_LIKE="rhel fedora" VERSION_ID="8" PLATFORM_ID="platform:el8" PRETTY_NAME="Virtuozzo Linux" ANSI_COLOR="0;31" CPE_NAME="cpe:/o:virtuozzoproject:vzlinux:8" HOME_URL="http://www.virtuozzo.com" BUG_REPORT_URL="https://bugs.openvz.org" [bitwalk@vzlinux-pc ~]$
どうやら VzLinux の正式名は Virtuozzo Linux のようです。
インストール用の iso イメージは vzlinux-iso-8.4-7.iso というように、RHEL 8.4 に対応するバージョンであすことが判るようになっていますが、バージョン情報には、マイナーリリースのバージョン番号は含まれていません。
まとめ
RHEL 互換の Linux ディストロですが、バージョン番号の扱いひとつ取っても差があることが判ります。/etc/os-release に記載されている項目内容を比較しても、どれも RHEL の項目内容とまったく一致しているわけではありません。/etc/os-release に記載されている内容が互換性に大きな影響を及ぼすとは思いませんが、詳しく調べると、思わぬ箇所でいろいろな違いが見つかるのかもしれません。テーマを決めて RHEL 互換ディストロの比較を続けます。
参考サイト
- オープンソースソフトウェアとは
- bitWalk's: CentOS 8.2105 リリース [2021-06-03] [2021-06-06]
- CentOS Project shifts focus to CentOS Stream – Blog.CentOS.org [2020-12-08]
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