WBT とは Web Based Training の略です。PC のブラウザ上、ビデオなどでトレーニングが受けられるシステムです。
今回は WBT で出題された理解度確認問題の内容について愚痴ります。😅
自分が勤務している会社は米国に本社がある外資系だからなのか WBT が充実しています。新年になると日本企業と違って四月を待たずに直ちに期が変わります。今年もたくさんの WBT のトレーニングが割り当てられました。その中に、新しく統計コースが出来ていたので、珍しさも手伝って聴講してみました。このコースの最初は二項分布とポアソン分布のトレーニングでした。
トレーニングビデオは英語ですが、資料の説明を聴いているだけなので楽でした。しかし最後に、確認テストが 10 問あって、しかも実際に計算をしなければならない内容でした。
設問
例えば以下の設問です。これがなんとも変な問題だったのです。
Calculate the probability that a unit process with 98% yield will have exactly 97 good wafers out of 100 wafers run.
日本語に直せば下記のようになるでしょうか。
歩留まり 98% の単一工程で、ウェハーを100 枚処理して 97 枚が良品になる確率を計算しなさい。
勤務している会社は半導体製造装置を製造・販売および関連のサービスを提供する会社です。そのため、社員教育には半導体デバイス製造にあてはめた事例が多くあります。そしてこれはウェハー歩留まりの問題なのですが、なんともしっくりきません。🤔
ここは二項分布とポアソン分布の理解度確認問題ですので、出題意図を汲み取れば期待されている値を算出することはできます。
R では次のように計算します。
> dbinom(x = 97, size = 100, prob = 0.98) [1] 0.1822759
これは、成功確率が 0.98 である試行を 100 回実施したときに、97 回成功する確率を計算したものです。もちろん、これで正解です。🤗
さらに 0 〜 100 回成功する確率を全て計算して棒グラフにすると下記のような二項分布になります。
> barplot(dbinom(0:100, 100, 0.98), names = 0:100, ylab = "Probability", col = "magenta", cex.names = 0.75, cex.axis = 0.75, cex.lab = 0.75)
ちなみに、97 回以上(100 回まで)成功する確率は、
> sum(dbinom(x = 97:100, size = 100, prob = 0.98)) [1] 0.8589616
あるいは、
> 1 - pbinom(q = 97 - 1, size = 100, prob = 0.98) [1] 0.8589616
となります。
しっくりこない原因
確率の問題と割り切ればそれほど変に感じない問題が、確率を「歩留まり」に置き換えた途端にしっくりこなくなりました。「たかが社内教育の理解度確認問題なのだから割りきって考えなさい。」という声がどこからか聞こえてきそうですが、半導体製造の歩留まりを改善するために長年取り組んできた経験から、ここは譲れません。しっくりとこない原因を考えたくなります。
しっくりとこない原因を解くヒントは、トレーニングビデオに示されていた参考文献 [1] の Figure 1 にありました。
Figure 1 のタイトルは
Probabilities for number of wafers surviving from a lot of 25 wafers, assuming a line yield of 90%, calculated using the binomial distribution.
とあります。日本語に直せば、
ライン歩留まりを 90% と仮定したとき、1 ロット(ウェハー 25 枚)が処理されて、最後まで残るウェハー枚数の確率を二項分布で計算した結果
とでもなりましょうか。
昨今のNAND フラッシュメモリーやプロセッサーなど半導体デバイスの製造工程は何百工程とあり、大きく、フロントエンドライン(ウェハー上のデバイス加工)とバックエンドライン(チップのパッケージ加工)に分かれています。ラインの工程内検査で規格外れがあれば、原則リジェクト(廃棄の意味で、ボツなどともいいます)となります。ライン歩留まり 90% ということは、25 枚ウェハーを 1 ロットとしてフロントエンドラインへ投入すると、ラインアウト(全工程完了)時には 25 × 0.90 = 22.5 ~ 23 枚ぐらいに減ってしまうということです。歩留まりが低いとは思いますが、不自然な話ではありません。
この事例のライン歩留まりを、社内の WBT では、製造装置メーカーだからと単一工程の歩留まりに書き換えたのです。ここに無理があったようです。単一工程の歩留まりをウェハーの枚数という単位で、良・不良を論じようとするところに出題者の経験の浅さが現れています。統計の専門家であっても半導体製造は素人です。そもそも歩留まり 98% の単一工程なんて最悪です、とても量産には使えません。
なーんて、いろいろ文句を言いながらも二項分布の復習がしっかりできたのでした。😄
参考 サイト
- D. S. Boning, J. Stefani, S.W. Bulfer ″Statistical Methods for Semiconductor Manufacturing, Encyclopedia of Electrical Engineering”, J. G. Webster, Ed., Wiley, to appear, Feb. 1999
にほんブログ村
0 件のコメント:
コメントを投稿