2023-12-09

AlmaLinux Day に参加して

AlmaLinux は CloudLinux チームによって開発されているフリーの Linux OS で、RHEL に ABI 互換でわることをうたっています。ラテン語で「魂」を意味する言葉にちなんで名付けられた AlmaLinux は、GitHub のページを通じてコミュニティの協力を得ながら開発が進められています。

Open Source Summit が 12 月 5 - 6 日の二日間、有明セントラルタワーホール & カンファレンスで開催されましたが [1]、平日の開催だったので参加できませんでした。

しかし同じ週の土曜日、同じく東京で AlmaLinux Day Tokyo 2023 が開催されるというアナウンスがあったので [2]、こちらは登録して参加してきました。

AlmaLinux Day Tokyo 2023

イベントの説明参加登録サイトの説明より引用)

「AlmaLinux Day Tokyo 2023」は世界初のAlmaLinux OS Foundation公式イベントです。

CentOS のメンテナンス終了がいよいよ最終フェーズとなってきている今、AlmaLinux OS は RHEL 互換 Linux の一つとして最も注目されています。

AlmaLinuxはコミュニティが所有および管理する永久無料のエンタープライズLinux ディストリビューションです。長期的な安定性に重点を置き、堅牢な商用レベルのプラットフォームを提供します。

本イベントでは、AlmaLinux OS Foundationのスピーカーが来日し、 Linuxに触れるすべての方に向けて、次期利用Linuxを選定する際に必要なLinux業界の動向から技術情報までご紹介します。

イベントの開催日時および場所は以下の通りです。

日  時 2023 年 12 月 9 日(土)13:00 ~ 19:30
場  所 株式会社インターネットイニシアティブ
東京都 千代田区 富士見 2-10-2 飯田橋グラン・ブルーム 13F セミナールーム 🌏
主  催 The AlmaLinux OS Foundation
協  力 サイバートラスト株式会社
株式会社インターネットイニシアティブ

当日のプログラムは以下の通りです。

Time メ イ ン 会 場 サ ブ 会 場
12:00 - 13:00 受  付
13:00 - 13:40 基調講演
benny Vasquez, AlmaLinux OS Foundation Chair
13:50 - 14:30 The Real Backstory of the Enterprise Linux Community (エンタープライズ Linux コミュニティの本当の裏話)
Igor Seletskiy, CloudLinux Inc. CEO
14:40 - 15:20 AlmaLinux コミュニティの日本での活動(仮)- 鈴木 庸陛, サイバートラスト株式会社
15:30 - 16:10 AlmaLinux の ABI 互換 について
Andrew Lukoshko, AlmaLinux OS Architect
必見!実践ガイド著者登壇!
AlmaLinux on ARM サーバーインフラ最前線
古賀 政純, オープンソース・Linux テクノロジーエバンジェリスト
日本ヒューレット・パッカード合同会社
16:20 - 17:00 AlmaLinux の SBOM について
Matthias Kruk, AlmaLinux Developer
Transitioning from CentOS 7 to AlmaLinux with Optimal Solutions
CentOS 7 から AlmaLinux へ!最適な移行ソリューションを徹底解説
加茂 智之, 株式会社デージーネット OSS研究室
17:00 - 17:30 休  憩
17:30 - 19:30 懇 親 会

所感

受付で、ビル内に入るゲートを通るためのQRコードと、ノベルティの AlmaLinux のロゴと文字がと入った黒のTシャツと IIJ のボールペン、それと会場になった IIJ の案内など関連冊子三冊を受けとりました。あと、セミナー会場で席につき開始を待っていたところ、AlmaLinux のシールが配られました。

シールはともかく、AlamaLinux のロゴの文字の入ったTシャツをもらったのは嬉しかったです。ふだん使っている Fedora Linux については、アマゾンでばった物(しかも古いロゴ)を買って着ているせいもあります。😅

受付 12:00 を 10 分ほど過ぎた会場はまだイベント関係者ばかりでした。ざっと150人程度収容できるセミナールームで、しばらくするとぼちぼちと人が集まってきました。ざっくり数えて見たところ50人程度か…。

最初の基調講演が終わったころには、まあまあ席が埋まっており盛況といっても良さそうでした。

写真撮影は OK でしたが、無遠慮に撮ると肖像権にひっかかる可能性があるので、控えめに撮りました。

基調講演

(benny Vasquez - AlmaLinux OS Foundation Chair)

逐次通訳者は、かなり余分に話している部分がありましたが、流暢で判りやすかったです。

講演の内容は、なぜ AlmaLinux があるのかについて、CentOS の開発終了の話から始まったので、比較的あたりまえの話のように感じましたが、最初にある基調講演の内容がこうなるのは仕方がないことなのかもしれません。

AlmaLinux Foundation 設立までの動きをひととおり紹介して、Almalinux の特徴を次の三点とまとめていました。

  • 中立的な環境 → AlmaLinux 財団
  • コミュニティによる運営
  • だれでも利用できる

RHEL よりバグフィックスが早いことを示しているスライドがありましたが、客観的な数値が示されていないのでそれが正しいのかはよくわかりませんでした。ただ AlmaLinux の利用者数が増えているということは理解できました。

RHEL との違いを尋ねられた質疑でも ABI 互換になったことによって、RHEL より早くセキュリティパッチを当てるのことが可能になったことを強調していました。

エンタープライズ Linux コミュニティの本当の裏話

(Igor Seletskiy - CloudLinux Inc. CEO)

こちらは RHEL の前の Red Hat Linux あたりから話が始まりました。

Red Hat Linxu 7.3 の成功あたりから Red Hat 社は Enterprise 向けのディストリビューションに集中することの検討をはじめ、その後の RHEL (Red Hat Enterprise Linux) へつづく話でした。

そして White Box Linux と cAos から生まれた CentOS は、小さなチーム(5人)始まった無料の RHEL 互換 OS を開発するプロジェクトでしたが、世界中に大変大きな影響を与えたと語られました。なんと、氏は CentOS のメンテナだったのです。

こんな小さなチームで活動を続けられるはずがなく、Red Hat 社に買収され、最終的に CentOS の開発を終えました。

これを受けて CentOS の創設者の一人が、Rocky Linux のプロジェクトを立ち上げましたが、一人で立ち上げたプロジェクトに過ぎません。

だから AlmaLinux の開発プロジェクトは、特定の人に依存しないように AlmaLinux 財団として立ち上げ、コミュニティで開発を進めるという形をとったんだと力説していました。

OpenELA (Open Enterprise Linux Association) 陣営に参加すべきか?については、IBM/RedHat 陣営との争うことが目的であれば、それは AlmaLinux の理念にはないことなので参加しないが、そうでなければ将来参加する可能性はあるということです。

OS として競合関係にあっても Red Hat 社と争うことを AlmaLinux は選ばないと、立ち位置を明確にしていました。

OpenELA の動向については、技術評論社の記事を下記に紹介しておきます。

AlmaLinux コミュニティの日本での活動

(鈴木 庸陛 - サイバートラスト株式会社)

ビジネスの世界では RedHat お墨付きのあるクローンである CentOS を好んで利用してきたが、最後の CentOS7 もそろそろサポート終了。

サイバートラスト (Miracle Linux) は産業領域(組み込み領域を含む)が強いとのこと。AlmaLinux と組むことは、互いに得意な分野を補完できる関係、ただし、ビジネスの部分と財団の活動は別として考えているということでした。

Red Hat 社が設けた制約 (regulation) を AlmaLinux は尊重していて、対立することはしないということでした。そのため AlmaLinux のビルドは CentOS Stream をベースにして取り組んでおり、これ(バグまで含めた 100% クローンということではなく、ABI 互換にすること)によって。Red Hat 社の影響(クローンであることの縛り)から離れ、自力 (AlmaLinux) で RHEL 互換の OS の継続を可能にする、という話でした。

RHEL, Ubuntu, Oracle Linux 同様に AlmaLinux も FIPS140-3 を取得済み。これがないと、米国政府系のシステムに採用されないということでした。

How to make a RHEL compatible distribution

(Andrew Lukoshko - AlmaLinux OS Architect and Release Engineering Lead)

どうやって RHEL 互換の OS を作っているのかというテクニカルな話でした。

従来は、RHEL のソースを持ってくるリポジトリは https://git.centos.org/ でした。しかし、このレポジトリに新しいソースが入ってこなくななりました [6]。そのため、ほかの方法で RHEL のソースを入手して互換 OS をビルドする必要が出てきました。

選択肢はいくつかあります。

  • Red Hat Universal Image (UBI)
    • 合法だが、RHEL 全体の 40% ぐらいしか入手できない。
  • CentOS Stream
    • 合法だが、それでも RHEL の一部のソースが入手できない。
    • 5 年で CentOS Stream は EOL になるので、その後のサポートが課題
  • 他の RHEL クローンのリポジトリ
    • ソースの出自が明確でないので、使うのは慎重に!

明言はされませんでしたが、AlmaLinux は CentOS Stream のソースをベースにしながら、足りないソースについては可能な方法をいろいろ試しているのだと理解しました。

そういう状況なので、AlmaLinux では rpm パッケージの差異を確認するために、pkgdiff というツールを使って確認しているとのことで、このツールの使用例も示されました。

次に OS のビルド環境の説明がありました。AlmaLinuix のビルドには https://build.almalinux.org/ を使用しています。

パッケージの ABI/API の機能の確認には、Pkg-ABIdiff というツールを使用しているとのことです。ABI や API の機能確認を汎用的にできるのだろうかと興味を持ったので、あとで調べて見たいです。

AlmaLinux は、セキュリティ勧告 (Security Advisory) に対応できるように取り組んでいるとのこと。

AlmaLinux は Secure Boot にも対応(メモを取りきれませんした。)。

AlmaLinux の SBOM について

(Matthias Kruk - AlmaLinux Developper, サイバートラスト株式会社)

下記に対応するために AlmaLinux の SBOM (Software BOM) についての取り組みが紹介されましたが、単に SBOM の最低限の要求に対応するだけでなく、それを拡張してより有用な情報を持たせたいという話でした。

ただ、SBOM を発行するために AlmaLinux 側に Immutable な DB を作り、そこにアクセスしてユーザーが SBOM を発行するというありかたに質疑が紛糾しました。このユーザとは誰を想定しているのか、まだあやふやだったからです。SBOM については曖昧な部分があり、今後の動向を注視する必要がありそうです。

大してその方面の事情に明るいわけでもないのに、つい、質疑に加わってしまいましたが、SBOM の動向については大変勉強になりました。

まとめ

最後の懇親会には参加せずに帰りましたが、終わってみればなかなか盛況で良いイベントだったと思いました。特に Andrew Lukoshko 氏の講演、How to make a RHEL compatible distribution は大変興味深い内容でした。Red Hat 社が示している制約 (regulation) を守りながら、誰もが自由に使える互換 OS を提供したいという意気込みを強く感じました。

RHEL のソースコードがいままでのように簡単に入手できなくなったとき [6]、オープンソースを利用している OS のソースコード公開に制限をかけるのはケシカラン、Rocky Linux はあらゆる手段を講じてでもソースコードを入手し、RHEL クローンを提供し続けます、というような攻撃的な論調を Rocky Linux プロジェクトの声明(参考サイト [10])に感じてしまいましたが、AlmaLinux 側の論調には Red Hat 社へのリスペクトを感じました。あくまで個人的な感想です。

サイバートラスト社が AlmaLinux 財団のプラチナスポンサーになったことから、Open Source Summit が日本で開催されたのを機に AlmaLinux のイベントも開催されたのでしょうが、RHEL 互換 OS である Rocky Linux などについても同じようなイベントが日本で開催されればいいなあと思いました。

参考サイト

  1. Open Source Summit Japan | Linux Foundation Events
  2. Announcing AlmaLinux Day Tokyo!
  3. CentOS Project shifts focus to CentOS Stream – Blog.CentOS.org [2020-12-08]
  4. CentOS Stream: Building an innovative future for enterprise Linux [2020-12-08]
  5. CentOS Stream:エンタープライズLinuxの革新的な未来を築く [2021-01-05]
  6. CentOS Stream のさらなる進化 [2023-06-21]
  7. AlmaLinux OS - Forever-Free Enterprise-Grade Operating System [2023-07-13]
  8. AlmaLinux、今後はRed Hat Enterprise LinuxのABI互換を目指すと発表。これまでの「バグまでRHEL互換」の路線を変更 - Publickey [2023-07-18]
  9. AlmaLinux、ソースコードの公開方針を変更したレッドハットとの関係に暗雲 - ZDNET Japan [2023-07-27]
  10. Keeping Open Source Open | Rocky Linux [2023-06-29]
  11. AlmaLinux の 2023 年を振り返る|BLOG| サイバートラスト [2023-12-21]

 

ブログランキング・にほんブログ村へ bitWalk's - にほんブログ村 にほんブログ村 IT技術ブログ オープンソースへ
にほんブログ村

オープンソース - ブログ村ハッシュタグ
#オープンソース



このエントリーをはてなブックマークに追加

0 件のコメント: