Wayland は、X Window System の代替を目指している Linux 向けに開発されたディスプレイサーバーのプロトコルで、OpenGL ES ベースのグラフィックシステムです。なぜ、Linux 向けなのかというと、Wayland は Linux カーネル組み込みの DRM (Direct Rendering Manager) 1. や、高速な GPU メモリ管理機構の GEM (Graphics Execution Manager) 2. を利用しているためです。Wayland は Red Hat の Kristian Høgsberg 氏を中心に開発が進められており、MIT のライセンスに基づいて配布されています。
Wayland は X Window System よりもシンプルで柔軟性があり、今やどこにでもあるグラフィックス・アクセラレータ用ハードウェアをサポートしています。そのため、現在の X を上回る高速な描画性能が期待できます。
すでにいくつかの GUI ライブラリやウィンドウマネージャが Wayland をサポートしています。GNOME はバージョン 3.14、KDE はバージョン 4.11 からサポートされています。
参考サイト [3] によると、次の Fedora 24 では、GNOME on Wayland がデフォルトのウィンドウマネージャになる可能性に触れています。もっとも、オプションとしては、GNOME on Wayland は Fedora 21 から利用可能になっています 4.。当然、Fedora 23 でも利用可能です。
ノート PC にインストールしてある Fedora 23 で、デフォルトの GNOME から GNOME on Wayland に切り替えて少し使ってみたところ、画面の描画速度が目覚ましく速くなったという実感はありませんでしたが、デフォルトの GNOME とほぼ差異なく使用できます。
ただ以下の二点が気になりました。
- マウス中ボタンによるペースト
- 昔は UNIX/X 用に 3 ボタンマウスが販売されていましたが、今ではほとんど見つけることができません。その代わりマウスホイールをクリックすることで、従来の中ボタンの代替ができていますが、この機能が Wayland 上では効いていません。もしかするとこのようなマウスイベントは Wayland がサポートする範囲外なのかもしれません。
- 外付けディスプレイとの切り替え
- ノート PC を使っているときは、使っている最中に外付けディスプレイを接続したり外したりして画面を切り替えることがあるのですが、デフォルトの GNOME に較べて、制御ができなくなる不具合が生じる頻度が多いと感じました。残念ながら詳しくデータとして残せるような検証まではしていません。
なお、Raspberry Pi などでは、画面描画速度が Wayland によって明らかに改善されているという報告がされています 5.。
Ubuntu を支援している Canonical も 2010 年に Wayland の採用を発表していましたが、その後、独自に Ubuntu 向けに Mir というディスプレイサーバを開発して、それを次世代の Unity で採用することに計画が変更されました 6.。Mir は GPLv3 に基づいて配布されます。
いろいろ似たようなプロジェクトが出てきて競争をもたらすことは結構なことですが、多様性を制限なしに許すと、開発者にとってコストの増加につながりますので、頭の痛いところです。
Linux ユーザーとしては、X から軽量のディスプレイサーバに置き換わって、グラフィックボードが持つ性能を十分享受できるようになれば、いずれが主流になっても構いません。しかし、そこまで期待するのであれば、オープンソースの成果を利用している一人として、何か貢献できることがないか考えなければ…。
X が現在のバージョン 11 (X11) になったのは 1987 年。それ以来、マイナーな改良を続けながら実に四半世紀以上も、Unix系オペレーティングシステム (OS) などでのグラフィカルユーザインタフェース (GUI) を構築するためのプロトコルとして利用され続けています。
参考サイト
- カーネル2.4の特徴は
- Graphics Execution Manager - Wikipedia
- Fedora 23 lands with GNOME 3.18, Wayland progress, and a new upgrade system | PCWorld
- GNOME on Wayland in Fedora 21 - Fedora Magazine
- Raspberry Pi Gains Graphics Speed as Wayland Replaces X | Linux.com
- Canonical、独自のディスプレイサーバーを開発することを発表 | スラド Linux
- Wayland