2014-06-01

Linux で実現できるスモールオフィス環境を考える

2 年ほど前に「Linux はポピュラーな OS になったか?」という記事を書きましたが、その後も W3Schools Online Web TutorialsOS Statistics が示す Linux クライアントの割合は 5% 程度で推移しています。

ちなみに、先日米国へ出張した際に判ったことですが、この W3Schools で紹介されている Web 技術のチュートリアルは、少なくとも出張先で聞いた限りでは、極めて評判の良いサイトのようです。我が日本人スタッフの連中も英語のサイトを読むだけのスキルがあれば強く勧めるのですが、現実は極めて厳しいです。中学英語をマスターしていて、新しい単語を調べる気がありされすれば、なんてことは無いと思うのですが…。新しい知識に対する "飢え" が無いからでしょうか…、いや、愚痴はこの辺にしましょう。

さて下記サイトですが、OS のシェアに関してはもっと細かく掲載されています。

デスクトップおよびラップトップ PC の出荷台数比で Linux 搭載分が 1.5% 程度であるのに対し、Web クライアントの統計で Linux が 15% を占めているのは、Android の分が含まれているためです。

サーバ用途では Linux は 3 割近くを占めておりよく健闘しています。またスーパーコンピュータの世界に至ってはいまや Linux が主流です。仮想化の技術が盛んな今ですから、物理サーバ上のホスト OS は VMware のような仮想ソフトウェアを動作させるための最低限の環境を備えた Linux である場合もあります。

デスクトップやラップトップの PC では、相変わらず Microsoft Windows が主流で、前述の出荷ベースで見る限り Linux のシェアは僅かなものです。しかし、Linux のデスクトップ環境は日本語も含めて、Windows とそれほど遜色があるとは思えません。

会社から供与されている PC は、Windows XP のサポート終了の影響を受けて、数ヶ月前に新しい HP のノート PC になりましたが、OS は 32bit の Windows 7 です。Windows 7 に変わっても、(少しは速くなったかもしれないが)ブート/リブートの遅さ、リソースに負荷がかかる作業(例えば Eclipse や NetBeans IDE による作業)をすると、全体的に動作が重くなってしまうので、その後にリブートを必要とするというお粗末なリソース管理や、セキュリティアップデートによる頻繁な再起動要求にはいつも閉口しています。


もし自分が独立して小さな会社を構えるとすれば、Windows はコストの無駄なので、Linux だけで業務ができるようにしたいものだと思っています。Web やメールサーバを含めたネットワーク系は Linux サーバで対応できますが、ランニングコストやスケーラビリティを考えると、今どきであれば、社内 Web やメールはクラウドサービスを利用した方がコストメリットがあるかもしれません。しかしデスクトップ環境までクラウド環境に頼るほどには進歩的な考え方をしていませんので、この部分を Linux で実現するとすれば、必要な条件は何になるかを考えてみました。

なお、インターネット上でオフィススイートを利用する選択肢は、検討する価値があるので、別の記事で評価してみたいと考えています。


事務一般

「事務」とは書きましたが、いわゆる Microsoft Office を使う業務です。この Microsoft Office の存在が Windows を使わなければならない大きな理由となっていますが、一般的な用途で考えた場合、Outlook と Publisher を除けば、Linux 上で動作する LibreOffice で置き換えられます。Excel や Word について表面的な機能しか知らないスタッフであれば LibreOffice の Calc や Writer を使うのに大きな抵抗はないでしょうし、エキスパートであればそれなりに使いこなすことは難しくないはずです。LibreOffice の Impress が Microsoft の PowerPoint に相当しますが、Linux 上ではフォントが異なるため見映えが異なるほか、操作方法においても使用感が異なります。これには慣れが必要なのでしょう。Microsoft Access と LibreOffice の Base が対応するのでしょうが、私はデータベースとしてどちらも使わないので比較はできません。ちょっと乱暴かもしれませんが、とりあえず Excel, Word, PowerPoint に相当するものがあれば大丈夫でしょう。

Outlook を単なるメールクライアント(メーラー)として考えれば、Linux でも Mozilla ThunderbirdSylpheed などを利用することで対応できますが、PIM の機能を重視する場合は Novell/Gnome の Evolution か KDE の Kontact で同様な機能が実現できそうです。

Microsoft Publisher については、現状ではスタッフに社内広報誌作成のために使用してもらっていますが、なかなか使い心地が良く、意外とこのようなちょっとした用途の分野では評価できるツールです。LibreOffice の Draw で対応できるかというと、できないことは無いが、やや役不足です。この用途に業務的に格別なニーズがある場合は Inkscape の使用を検討した方が良いかもしれません。なお、DTP の分野に業務的なニーズがある場合は、Linux は今のところこの方面に強いとは言えません。業界的には Macintosh / Mac OS X が向いています。

話が少し大きくなってしまいましたが、手軽に社内報やチラシを作ることであっても、それが主業務になるのであれば、Microsoft Publisher に相当するアプリケーションを Linux 上で探すのは難しいかもしれません。しかし、優先順位を落とせるのであれば、考慮から外しましょう。

なお、Microsoft Visio については、LibreOffice に対応したものがないので、Dia で同じような業務の実現を考えることになるでしょう。


エンジニアリング

Microsoft Office の部分を LibreOffice に置き換えることができるだけで、いわゆるパソコンを使う業務についてかなりの部分を Linux のシステムで置き換えることができますが、これだけではまだ不足です。いくつか考えられるケースを挙げてみます。

プログラミング

一言にプログラミングといっても対象はいろいろありますが、GNU GCC 系で対応できるプログラミングであれば費用をかけずに開発環境を揃える事が出来ます。Web アプリケーション開発(Apache 系 Web サーバ)や OS に依存しないスクリプト言語系の開発は概ね問題無いはずです。またバージョン管理などをはじめとした開発環境全般を揃えるのは、Windows より Linux の方がむしろ適しているかもしれません。

統計解析・データマイニング

統計解析とデータマイニングに、今の会社では JMP を使っています。ただ(結構な数量の)高いライセンス料を支払うだけの使い方をしているとは言えません。操作の仕方は異なりますが、少なくとも検定、分散分析、回帰分析などの基本的な統計解析や実験計画 (DOE) で JMP ができることは R 言語でもできます。Windows 版の R もあるので、社内でいろいろな人に薦めたことがありますが、プログラミング言語的あるいはコマンド入力的な側面がある R を、たいていの場合、敬遠されてしまいます。そういう会社ですので SPCMSA に JMP を使うという、ややもったいない使い方をしています。

SPC を本格的に導入するのであれば、製造ラインからデータを吸い上げる自動化システムと連携できる専用の SPC システムを導入すべきですし、そうでない、小規模な(リアルタイムで無い)SPC で妥協するのであれば、それこそ Excel で十分です。MSA に至っては、一部 Excel では計算できない超越関数の数値を把握さえすれば、Excel で計算できるレベルの内容です。JMP でなければならない理由はないのですが…(しまった、愚痴になりそうです)。まあ、MSA ぐらいであれば R で集計を自動化することはたやすいことです。

R を使いこなすには、ある程度の習得期間を必要としますが、ツールを変えることによって業務が Windows や Linux といった OS に依存しなくなります。一方、お金を掛けずに高度な解析にも使うことができる R を使いこなせることは、この方面のエンジニアリング業務では得難い貴重なスキルと言えます。

ということで、データマイニングについては、Linux 環境では R を使いこなせさえすれば、Windows 上の商用の統計解析ソフトウェアがなくともやっていけます。他にも Linux 上でデータマイニングなどに利用できるツールはあるのですが、それらの紹介は省略します。

CAD

特定の OS 上の CAD でなければ出来無い業務は論外ですが、Linux で動作する 2D/3D CAD には、Dassault Systems 社の DraftSightVariCAD 社の VariCAD が Linux (Ubuntu, Fedora) にも対応しています。その他、QCAD というものもあります。

その他

本記事を書きながらいろいろなサイトを探すうちに、下記のサイトを見つけたので、探すのを止めました。このサイトでは、Linux のソフトウェアの情報がカテゴリに分けられてよく分類されています。人の興味はそれぞれで、どうせ一人の人間の考えだけでは書き尽くせないだろうから、あとは下記のようなサイトを見ていただいた方が良いでしょう。

ただ、業務で使うパソコンの OS を、Windows から Linux へ切り替える場合、パソコン上で自分が使うツールを置き換えられたとしても、まだ何かありそうです。例えば、Cisco の WebEx や、Microsoft Lync などのインターネットを介しておこなう会議システムの Linux 対応はどうなっているかなども調査しておかなければならないでしょう。これらは続編でレポートしていきます。


どの Linux ディストリビューションを使うか?

業務で使うソフトウェアは、特殊なものを除き、大抵は Linux のディストリビューションのパッケージで間に合ってしまうというのが私の考えです。では、どの Linux ディストリビューションが最適でしょうか?

これは結構難しい問題です。私は永らく RedHat 系を使ってきているため、RPM によるパッケージ管理にすっかり慣れてしまっているので、自分がある程度のシステム管理に関わるとすれば、RPM 系のディストリビューションで環境を固めたいのですが、Fedora は通常業務には使えません。新しいパッケージの採用が他のディストリビューションより早く、時として不安定な時がありますし、パッケージ更新が週一回以上というのは頻度が高すぎます。業務で使う場合、セキュリティアップデート以外は、落ち着いたペースでパッケージの更新は管理したいものです。デスクトップ用途については少し整備する手間を必要とするかもしれませんが、手堅いところで CentOS が有力候補になるでしょうか。CentOS は本来はサーバー用途のディストリビューションですので、サーバー用途を含め、ひとつのディストリビューションで基本的にまかなえます。デスクトップ用途については、あまり心配はしていませんが一度評価をしておく必要がありそうです。


関連サイト

  1. Linux 対応の中小企業向け会計ソフト - インターネットコム

1 件のコメント:

ushikun さんのコメント...

先ほど、Alfrescoの記事にコメントした者です。

Windowsに代えて、Linuxというのは私も同感です。
サーバ用途だと、性能面でWindowsよりも優れている上、
わかっている者(管理者)が設定するので、完全にLinuxに軍配が上がりますが、
デスクトップ用途だと、Windowsに慣れた社員の教育が大変なので、
Linuxへの切り替えは結構大変だと思います。
各人が"わがまま言い放題"のうちの会社などは特に。

私は会社PCは自己責任でLinux Mintを使っています。
大抵の仕事はLinuxでまかなえますが、
どうしてもWindowsでしか動かない特殊ソフトがあるので、
Windows環境は必要で、KVM上にWindows 7を構築して使っています。